名古屋市昭和区に位置する鶴舞公園は、明治42年(1909年)に開園した名古屋市最古の公園のひとつです。
敷地面積は約25ヘクタールにおよび、四季折々の花木が市民に親しまれています。
なかでも花菖蒲園は、約100種・25,000株という東海地方随一の規模を誇り、例年5月下旬から6月中旬にかけて見頃を迎えます。
近年はライトアップイベントも行われ、昼夜を問わず多くの来園者が訪れています。
そこで今回初めて夜の花菖蒲の観賞に鶴舞公園に訪問しました。
地下鉄の改札を抜けると、すでに空は西に向かって燃え始めていました。
夕刻の鶴舞公園に足を踏み入れた瞬間、青と紫のグラデーションが視界を埋め尽くし、思わず足が止まりました。花菖蒲の海です。
まだ日が沈みきらぬうちから、花畑は黄金色の残光を浴びて輝いていました。
白、薄紫、深紫、青紫——同じ菖蒲でありながら、これほど多彩な表情をもつものかと改めて驚かされます。
一輪に顔を近づけると、花弁の細かな脈のうちにわずかな黄が走り、まるで精巧な染め物のようです。
カメラを持った人々が静かに膝をつき、それぞれの一輪と向き合っていました。
日が木々の向こうへと沈むにつれ、空は橙から深紅へ、そして一気に藍へと転じました。
するとどこからともなく小さな光がともり始めます。花畑の縁に並べられた行燈が、一つ、また一つと橙の炎をまとい、石畳の遊歩道をやわらかく照らし出しました。
昼間の賑わいとは打って変わった静寂のなかで、燈火に照らされた菖蒲はいっそう妖艶な色合いを帯び、まるで水面に浮かぶ幻のように揺れていました。
ベンチに腰を下ろした二人連れが、言葉もなくその光景を見つめていました。
石畳を歩く若者が立ち止まり、スマートフォンを構えては下ろし、また構えています。
写真には収まりきらないと気づいたのかもしれません。
見上げれば、夜の帳のなかに月が静かに浮かんでいました。
満月に近いその白い光が花畑全体を銀色に縁どり、行燈の暖色と溶け合って、この世のものとは思えない景色をつくり出していました。
初夏の宵に香る緑の匂い、遠くから届く虫の声、そして紫の花々を揺らす夜風——鶴舞の花菖蒲は、昼も夜も、それぞれの顔で人を迎えてくれます。
住所 愛知県名古屋市昭和区鶴舞1丁目
アクセス:電車 JR中央本線「鶴舞」駅 徒歩約1分
名古屋市営地下鉄鶴舞線「鶴舞」駅 徒歩約3分
入場 無料(ライトアップ期間中も無料)