東山の懐に抱かれた泉涌寺の別院、「雲龍院(うんりゅういん)」を訪れました。
ここは、南北朝時代の後光厳天皇によって建立された、皇室ゆかりの「御寺(みてら)」の別格本山。
観光地の喧騒から遠く離れ、写経の道場としても知られるこの寺院には、心を深く沈めて自分自身と向き合うための、静謐な時間が流れています。
重厚な山門をくぐると、磨き抜かれた床が光を反射する、静かな回廊が続きます。
雲龍院を語る上で欠かせないのが、本堂にある「悟りの間」です。
ここには、禅の悟りの境地を象徴する円形の「悟りの窓」があります。
窓の向こうに切り取られた庭園の風景は、季節や光の加減でその表情を変え、見る者の心の内を映し出す鏡のようです。雨上がりのしっとりとした緑が、円い縁に切り取られる様は、言葉を失うほどの美しさでした。
また、台所に祀られている「走り大黒天」も、この寺の特別な存在です。
通常、大黒様といえばどっしりと座っている姿が一般的ですが、こちらの像は今にも駆け出そうと片足を上げた、躍動感あふれるお姿。
撮影禁止のため、その姿を瞳に焼き付けるしかありませんが、私たちの願いをいち早く聞き届けようと奔走してくださるような、慈愛と力強さを感じることができました。
2月下旬の訪問ということで、この時期ならではの華やかな出会いがありました。
書院や廊下の随所に展示されていた「お雛様」です。
皇室ゆかりの寺院にふさわしい、気品あるお顔立ちの京雛たちが、静かな空間に春の温もりを添えていました。
歴史を重ねた空間の中で、優雅な衣装を纏った雛人形たちが並ぶ姿は、まるでお公家さんの邸宅に招かれたような錯覚を覚えさせます。
庭園に目を移せば、そこには梅の木々が佇んでいます。
雲龍院の梅は遅咲きが中心で、満開を迎えるのは例年3月中旬。
訪れたこの日は、まだほとんどが固い蕾の状態でしたが、それがかえって「春を待ちわびる」この寺の静かな気風に合っているように思えました。
今はまだ控えめな枝振りに、わずかに膨らみ始めた蕾の紅が差し、来月にはこの庭を甘い香りで満たすであろう光景を想像するのも、また一興です。
派手な演出はなくとも、細部まで行き届いた手入れと、歴史が醸し出す品格。雲龍院は、春を待つ蕾のように、内に秘めた美しさを静かに愛でるための、大人の隠れ家のような場所でした。
住所: 京都府京都市東山区泉涌寺山内町36
京都駅からのアクセス:
市バス: JR京都駅前バスターミナル(D2乗り場)から208号系統に乗車、「泉涌寺道」バス停下車。参道を登り徒歩約15分。
電車: JR奈良線または京阪本線「東福寺駅」下車。徒歩約15〜20分。